愛して、愛されて。
第3章 日常と、
「…っ…、」
何故か離れなきゃいけない気がして、俺は一歩後退りをした。
手が離れ、伊勢谷先生の目からも解放される。
動揺する俺と打って変わって、伊勢谷先生は明るい声を上げた。
「さっ、俺は仕事を進めるとするよ。村尾も、委員会、頑張りなさい。」
「…あ、はい。」
警戒心を高めていた俺は、一気に肩の力を抜いた。
PC室の扉の向こうに消えた伊勢谷先生を見つめる。
姿が見えなくなり、扉が閉まる音がする。
俺は小さく、安堵の息を吐いた。
…考え過ぎだよな。
恭に言われたから、変に意識してるだけだよな。
大丈夫、大丈夫。
言い聞かせるようにして、PC室の扉に背を向けた。
伊勢谷先生の笑顔が、朝見た雄飛さんの笑顔に似てるとか…
きっと俺の考えすぎだろ。
…きっと、俺の思い違いだろ。
「……思い違いだ。」
小さく呟いて、俺は図書室の扉を開けた。
背中にゾクリとした、悪寒を走らせたまま。
「…かわいい、俺の村尾。いや。かわいい…俺の奏太。」
不気味に笑う伊勢谷先生が呟いていた言葉なんて、
俺は知るよしもなかった。