愛して、愛されて。
第4章 酷く冷たい優しさ
せめて。
帰る場所が違うのなら、少しは救われたのかもしれない。
もっと遠い高校に入学して、できるなら寮に住んで。
そうすれば、兄さんのことなんて、忘れることができたかもしれない。
「ただいま。」
珍しく、母さんの返事がなかった。
いつもならこの時間帯、家にいて、夕飯作りに取り組んでいる母さんの姿もなかった。
出かけてんのかな。
靴を脱ぎ、薄暗い廊下を進む途中で、ピタリと足が止まった。
「っ、兄さん。」
足を止めず、そのまま2階へと上がってしまえばよかった。
…リビングになんて、目を向けなきゃよかった。
ガラス張りの扉の向こうのリビング。
その扉から少し見えたソファーには、黒いジーンズを纏った、兄さんの細い足が見えた。