背中デ愛ヲ、囁キナサイ
第2章 月明カリノ下デ
誰にぶつけることもできない怒りに似た空虚な感情は、自分の中で消化しきれず、得体の知れない「かゆみ」となってわたしの右の胸元に現れた。
それが、この胸の傷の始まりなのだ。
わたしがあんなにまで愛した人は、「疲れた」の一言を吐くと、外していた結婚指輪を左手の薬指に嵌め直していた。
わたしの目の前で……
わたしはただ惨めで、「待って」という一言すら口からは出てこなかった。
辛い、でも
悲しい、でも
悔しい、でも
寂しい、でもない、
からっぽの心。
胸のかゆみはとどまらず、とにかく掻いた。
掻きむしった……