背中デ愛ヲ、囁キナサイ
第2章 月明カリノ下デ
気がつけば、わたしはまた胸元を引っ掻いていたようで、わたしの手を止める彼の手の温もりで我に返った。
「まゆみ? もうやめよう?」
そう言いながら隣に腰を下ろした彼は、血のついたわたしの左手に自分の左手を重ねて傷を覆い隠してくれた。
「僕はまゆみから離れたくなんかないよ、嫌われたって……」
冷え切ったわたしの肩は、彼の右手が力強く温めてくれていた。
わたしは初めて、男の人の胸で泣いた。
不思議なことに、今まで際限なく続いた胸のかゆみに襲われることはなく、彼の服が濡れてしまうほどに涙が出た。
この涙は一体、なんの涙だろう。
苦しくもない。
悲しくもない。
傷も痛みも消されるような、不思議な涙……