血とキズナ
第5章 路地裏の青天
ここ最近、あれだけ湧くように出てきたカギ狙いの連中が、一向に現れなくなった。
しかし、理由はわかりきっている。
今のように、こうして登校から下校まで、鴇津が張りついているからだ。
鴇津の強さは、誰もが認めるところなのだろう。
鴇津のすごさを、改めて実感する今日このごろである。
「なあ。ここ最近鴇津さん、機嫌いいよな」
隣を歩く佐山が、リツにだけ聞こえる声でささやいた。
しかし、リツはその感想に疑問を持つ。
「え、逆だろ」
「逆? だって『ア゙?』みたいな凄み、最近してこないじゃん」
リツは佐山の推測に息をついた。
「だからだよ」
「は?」
前を歩く鴇津を、リツはもの悲しげに見つめた。
佐山の言うとおり、最近の鴇津は大人しい。
むやみやたらと機嫌の悪さを見せなくなった。
しかしそれは、機嫌がいいからではないと思う。
たぶん、感情を隠しているのだ。
あの日から、リツがなにを言っても「ああ」とか「そうか」としか返してくれなくなった。
機嫌がいいどころか『怒』の感情すら、見えなくなってしまった。