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血とキズナ

第5章 路地裏の青天

 誰にも干渉されず、干渉せず、ムカつくヤツはぶっ飛ばして、適当なヤツに殺されて死ぬ。

 そんな人生でよかった。

 でも最近、そんなことを考える度に、リツの顔や言葉、そしてあのまっすぐな目が訴えてくる。

 鴇津のアイデンティティが、揺らぎだしていた。

 煙草の煙が、風に揺らめきながら宙へと消えていく。

 その先の空には、雲一つない青天が広がっていた。

 そのことに、鴇津は気づかない。

 敵が埋もれた地面に座って灰が落ちていくのを、鴇津はぼんやりと眺めていた。


 死んでいた男共が息を吹き返しだした頃、鴇津のケータイが鳴った。

 ブレザーのポケットから取り出すと、液晶にはユウゴの名前が表示された。
 鴇津は通話ボタンを押す。


「なんだ」

「あ、トキツさん、ちょっと報告があるんすけど」


 痛手を負った男たちが鴇津を睨みつけながら逃げていくのを後目に、鴇津は通話を続けた。


「リツの奴、今日からバイトらしいんスよ」

「バイト?」

「うっス。
 今バイト先まで送ってきたんすけど、帰りはその、どうします?
 トキツさんがいうなら、オレ迎えに行きますけど……」


 ユウゴは不満げに言った。
 鴇津は短くなった煙草の先を地面に擦り付けながら、少し考えた。


「いや、いい。帰り何時だって」

「10時上がりだそうっス」

「わかった――」


 そう言うなり、鴇津は早々に通話を切った。

 不覚にも、めんどくさいとは思わなかった。
 むしろ数時間後に、リツの顔を見られると知って、妙な安心感がうまれた。

 鴇津は自分の変化に、呆れるしかなかった。

 さすがに自分を誤魔化しきれる粋を越えるぐらい、鴇津はリツのことを気にしている。

 鴇津はスマートフォンの液晶画面を、じっと眺めた。






 

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