
血とキズナ
第7章 ニセモノ
「鴇津さん、どうしたの? 珍しいね」
鴇津が、リツの携帯に電話してくるのは、初めてのことだった。
リツの現状を把握するために、電話をしてくるのは頻繁にあることだが、それはいつも佐山の携帯なのだ。
『今ヒマか』
電話口から聞こえる声は、普段の声より少し低く、艶っぽい。
「ヒマだけど、なんで?」
しかし鴇津は『そうか…』と煮え切らない反応。
自分から聞いてきておいて、暇でないほうがよかったような言いぐさだ。
『ヒマなら、海でも行くかと思ってな』
気の乗らない声色のままの鴇津だが、その言葉に、リツは即答する。
「行く!」
鴇津が人を誘うなんて珍事中の珍事。
リツはうれしさのあまりベッドから飛び降りた。
この際、鴇津の変な反応などどうでもいい。
携帯を耳に当てながら、リツは部屋着を脱ぎ捨てた。
『どんぐらいで出てこれる』
「2分で行ける!」
『……。じゃあ、10分後に玄関前で』
「わかった、すぐ行く!」
『人の話聞いてたか。10分後だぞ』
「わかってるよ、じゃまたあとで」
そう言って電話を切ると、リツはあっという間にジーンズとTシャツを身につけ、パーカーを羽織る。
そのポケットに、携帯と財布だけをに突っ込んだ。
10分待つ気など、端からなかった。
どうせ待つなら、部屋より待ち合わせ場所がいい。
リツは早々に部屋を飛び出した。
