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血とキズナ

第7章 ニセモノ

「だからもしちゃんと出生届が出てて、ちゃんとした戸籍があることがわかったら、俺はそっちの戸籍になるんだってよ。
 面白いだろ。今の俺の存在は全部消えんだぜ」


 そういう鴇津の顔が、ふっと笑った。
 その表情に、リツは狼狽した。

「俺も、偽物っつうことだ」


 初めて見る鴇津の姿に、リツは思わず鴇津の椅子を回した。

 リツは、鴇津と対峙するように座る。

 いきなり面と向かされた鴇津の瞳は、驚くほど弱々しく、真っ暗で、リツはその瞳をじっと見つめた。
 鴇津も、そんな瞳を隠さなかった。


「平気だよ。
 本物でも偽物でも、俺の中で鴇津さんは鴇津さんだから。
 名前が変わっても問題ないよ。
 てか、鴇津さんて誕生日いつ? なんかプレゼントするよ。いつも送り迎えしてるくれてるお礼」


 鴇津が、たくさんのものを抱えていることは知っていた。
 ただそれを、鴇津は放り出さない。

 たった一人で、気を張って、呑み込もうとしていた。

 そんな重いものを、鴇津はリツに、少し放り投げてくれた。

 それがうれしかった。

 リツのうれしさが伝わったのか、鴇津の表情も、見たことのない優しさが滲む。

 何も言わずに、鴇津は俯きながら立ち上がった。

 そして徐に、鴇津の大きな手が、リツの頭に乗った。


「行くか」


 それは一瞬で、リツの髪に触ると、すぐに離れていった。

 離れて行く鴇津の後ろ姿に、リツは「うん」と呟く。

 先を行く鴇津の背中が、少し堂々としたように見えた。

 リツは、その背中見失わないよう、追いかけた。





 

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