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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第2章 哀しみはある日、突然に

 父との短い結婚生活の間、夫婦は酒場の近くに小さな家を借り、母はそこから毎日、通っていた。父チソンについて、母は知っている限りを語って聞かせてくれた。かなりの教養のある男だったことだけは確かなようで、町の代書屋で働いていたと教えてくれたことがある。
 父が亡くなり、母はその家を引き払い、再び酒場に戻った。寡婦になった母はいっそう艶やかな色香を増し、ましてや頼りにする良人を失った弱みにかこつけ、客は以前にも増して色目を使うようになった。
 今度は養母の女将も
―良い男がいれば、その男に面倒を見て貰えば良いんじゃないのかえ。
 と、暗に複数の男と関係を持ち、その中から金蔓になりそうな客を選べと唆す有様だった。

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