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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第1章 第一話 【宵桜】 始まりの夜

 まさに、自然の織りなす奇蹟、この国広しといえども、どのように確かな腕を持つ絵師にも描くことのできない見事な一幅の絵ではないか。
 時折、風もないのに、はらりと小さな花びらが空(くう)を舞う。それすらも美しく絵になる貴重なひとときだ。
 今宵の月はふっくらと満ちているが、朧に滲んでいる。恐らく明日は雨になるのだろう。卿(キヨン)実(シル)が幼い頃、母美瑛(ミヨン)はよく言ったものだ。
―ほら、ご覧。お空の月が朧に滲んでいるだろう? こういう日の次は決まって雨が降るんだよ。特に天候の変わりやすい春先はね。
 キョンシルは小さな息を吐き、首を振る。

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