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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第1章 第一話 【宵桜】 始まりの夜

 母はずっと一人きりだった。あの小さな今にも折れそうな細腕でキョンシルを育て上げてくれたのだ。そろそろ母を自由にしてあげなければならない。母はまだ十分に若いのだ。女として一人の人間として、やり直す機会はある。そして、今まさにその瞬間が訪れようとしている。
 ならば、キョンシルは娘として母の幸せを祝福しなければならない。今度こそ、娘思いの優しい母が幸福を得られるように。
 その時、キョンシルの瞼を一瞬だけよぎって消えた面影があった。
 ああ、私は何を考えているのだろう?
 キョンシルはもう一度かぶりを振り、桜に背を向けた。

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