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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第4章 偽りの別れ

 トスは手を伸ばし、今度こそキョンシルの髪にかすかに触れた。せめて最後ならば、これくらいは―髪に触れるくらいは許されるだろう。手はしばらく髪をさまよい、やがて、白いやわらかな頬をそっと掠めて離れた。
「―幸せになるんだぞ」
 トスは呟いた。幸せな夢を見ているのか、キョンシルはかすかに笑んでいる。
 母の死、突然、知らされた出生の秘密、この娘には過酷な出来事が多すぎた。せめて夢の中でくらいは愉しいことがあれば良い。
 叶うことなら、この娘の側にいて、いつもこんな風に笑っていられるように守ってやりたかった。だが、所詮、トスには許されないことだ。

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