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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第6章 崔家での日々

 トスは何度も同じ言葉を繰り返した。漸く腕の力を緩めたトスはキョンシルの顔を両手で包み込むと、何かに耐えるような眼で見つめた。
「そなたのためには身内の許に連れてゆくのがいちばん良いと思ったんだ。そなたを崔イルチェどのの屋敷に連れていった後、俺もすぐに都を離れるつもりだった。でも、できなかった。どうしても、そなたを残して一人で去ることができなかったんだ」
 キョンシルの眼に涙が滲んだ。トスはトスでまた深く懊悩していたのだ。悩みに悩んだ末、都の祖父の許に託すのがキョンシルの幸せだと思い、崔氏の屋敷に連れていった―。
 トスの苦悩が手に取るように判るだけに、キョンシルは彼を責めることも恨むこともできなかった。

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