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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第8章 第二話 【はまゆうの咲く町から】 海の町から

 そして今、トスはその恋人の忘れ形見であるキョンシルを〝義理の娘〟と呼び、二人は建前は義理の父子ということになっている。
 キョンシルは都漢(ハ)陽(ニヤン)でも屈指の名門両班(ヤンバン)崔(チェ)氏の息女であり、望めば、いまだ健在の祖父崔一載(イルチェ)の許で何不自由なく過ごせたのに、トスと二人で生きてゆくことを躊躇いもせず選んだ。
 漢陽を出てひと月余りもの間、ずっと二人だけで旅を続けてきた。今朝、この海辺の町に漸く到着したばかりである。この町は、トスにとっては懐かしい故郷でもあった。帰りたいと切望しながらも、帰ることを許されなかった町。
―トスおじさんの故郷を見てみたいの。
 キョンシルの頼みがなければ、彼は帰ろうとは考えもしなかっただろう。

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