テキストサイズ

側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第2章 哀しみはある日、突然に

「ソンニョはどこかに出かけているのか?」
 漸く姿を見せたキョンシルに、トスがついに音を上げかけた。
 キョンシルは小首を傾げた。
「まさか。トスさんが来るってその日に、お母さんがどこかに出かけたりするはずがないでしょ」
「しかし、もう俺が来てから一刻は経ってるぞ?」
 キョンシルがフフ、と意味ありげに笑った。
「トスさんの仙女は、なかなか支度に手間取ってるのよ」
「おい、大人をからかうものではないぞ」
 珍しくトスが貌を紅くして、怒ったように言った。これまでだって、一度として声を荒げたことなどないのに。
「トスさんもお母さんも同じことを言うのね、流石に息のぴったり合った夫婦だわ」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ