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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第9章 第二話 【はまゆうの咲く町から】 李家の御曹司

 え、と、男は眼を剥き、その視線がはす向かいの小間物屋とキョンシルの間をせわしなく行き来した。相も変わらず美形の店主の周辺は賑やかだ。この軟弱そうな若者が倒れたときは見向きもしなかった娘たちが黄色い声を上げて店主を取り巻いている。
 やがて、〝なるほど〟といかにも訳知り顔で頷く。何となく嫌な感じだ。勝手に人の胸の奥底を見透かしているような傲慢さがほの見えている。
「なるほど、そなたがあの店をしきりに気にしていた理由、やっと思い当たった」
「どういうことですか?」
 思わせぶりな科白に、つい声が尖ってしまう。
「そなたの目当ては品物ではなく、あの店主の方だろう?」

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