
側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】
第9章 第二話 【はまゆうの咲く町から】 李家の御曹司
そろそろ始めて一刻以上は過ぎたという頃、突然、本堂の扉が軋んだ。誰かが入ってきたのだ。ここには日中、訪れる者は殆どいない。むしろ、月の明るい夜にひそやかな参詣者を見かけるくらいだ。この観音像には様々な逸話があるらしく、中でも代表的なのが満月の夜、仏像が涙を流すというものだった。
仏が泣くのは罪深き衆生を想い、慈悲の涙を流すのだと言われている。その涙を幸運にして眼にできれば、この世の苦しみから解き放たれ極楽にゆけるというので、満月の夜には必ずといって良いほど誰かが詣でていた。
他の参詣客が来たのなら、既に長居をしている自分はこの辺で終わりにしよう。そう思って立ち上がる。ほどなく傍らに男性が座った。背格好からして若い男らしい。
仏が泣くのは罪深き衆生を想い、慈悲の涙を流すのだと言われている。その涙を幸運にして眼にできれば、この世の苦しみから解き放たれ極楽にゆけるというので、満月の夜には必ずといって良いほど誰かが詣でていた。
他の参詣客が来たのなら、既に長居をしている自分はこの辺で終わりにしよう。そう思って立ち上がる。ほどなく傍らに男性が座った。背格好からして若い男らしい。
