側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】
第10章 第二話 【はまなすの咲く町から】 恋の病
彼が布団を被って悶々としている最中、室の扉が開く気配がした。続いて衣擦れの音がして、誰かが枕元に座り込む。
―やれやれ、また口うるさいのが来た。
更に布団の奥に潜り込むと、案の定、弱り切った声が布団越しに聞こえてきた。
「若さま、お願いですから、何か少しでも召し上がって下さいな」
乳母の玉(オク)貞(チヨン)である。ウォンジュンの生母は、彼が七つの冬に亡くなった。元々、身体の弱かった母の想い出は少なく、生母には申し訳ないが、彼にとっては物心ついたときから乳母が母親のようなものだった。
その乳母を困らせるのは本意ではない。ではないが、彼自身も今は自分の心を持て余しているのだ。自分以外の人間に気を遣う余裕などあるはずもない。
―やれやれ、また口うるさいのが来た。
更に布団の奥に潜り込むと、案の定、弱り切った声が布団越しに聞こえてきた。
「若さま、お願いですから、何か少しでも召し上がって下さいな」
乳母の玉(オク)貞(チヨン)である。ウォンジュンの生母は、彼が七つの冬に亡くなった。元々、身体の弱かった母の想い出は少なく、生母には申し訳ないが、彼にとっては物心ついたときから乳母が母親のようなものだった。
その乳母を困らせるのは本意ではない。ではないが、彼自身も今は自分の心を持て余しているのだ。自分以外の人間に気を遣う余裕などあるはずもない。