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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第10章 第二話 【はまなすの咲く町から】 恋の病

 商売にかけては冷酷無比とすら謳われる辣腕の商人がたった一人の息子にだけ見せる素顔だ。
「申し訳ございません」
 オクチョンは古くから仕え、屋敷の切り盛りを任せている執事の妻でもある。使用人には厳しいことで知られるソンジュンではあったが、無闇に無理難題を申しつけたりはしないし、一定の情は示している。使用人には甘過ぎもせず厳しすぎもせずというのが理想的な主人としての態度なのだ。
 見れば、乳母は恐縮しきっていた。我が儘な坊ちゃんをうまく手なずけられず、主人からどのような叱責を受けるかと恐れているのだ。こんなときは、主人として些か寛容な態度を示すべきときである。ソンジュンは鼻の下にたくわえた髭をひと撫でし、鷹揚に言った。

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