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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第10章 第二話 【はまなすの咲く町から】 恋の病

「ど、どうしたの? あれ、蒸し饅頭は好きって言ってなかったっけ。もしかして、嫌いだったとか? 私の勘違いだったかも」
「違うんです。僕、田舎の姉ちゃんのことを思い出して。姉ちゃんもこうやって、いつも僕に自分の食べ物を分けてくれていたんです。だから、キョンシルさんを見ていると、姉ちゃんの笑顔が浮かんできて」
 その言葉に、キョンシルは眼を潤ませた。
 少年は泣く泣く語った。四つ違いの優しい姉がいて、いつも何かにつけて少年を庇ったり、自分の食事を削っても弟に与えていたこと。彼等の両親は健在だが、父親は畑の斜面から転がり落ち、大けがを負ってからというもの、寝たきりになった。今は母親が一人で良人の面倒を見ながら、田畑を守っている。
 姉は近くの両班の屋敷に女中奉公に上がっていた。

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