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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第10章 第二話 【はまなすの咲く町から】 恋の病

―お願い、断って。私をどこにもやるつもりはないって、きっぱりと言って。
 キョンシルは祈るような心もちで、トスの言葉を待った。しかし。トスの口から発せられたのは、期待した科白ではなかった。
「それは俺が決めることではない」
「―!」
 チリーン、チリリーン、どこか物哀しい澄んだ音色が遠くから聞こえてくるのは、軒下に垂れ下がっている風鐸(プンギヨン)が海風に鳴る音だ。
 キョンシルは堪らなくなって、その場からそっと離れた。どこをどう歩いたのか判らない。いつしか、いつものお気に入りの場所―浜木綿の群れ咲く浜辺まで来ていた。
 キョンシルは打ち寄せる波を哀しい想いで見つめた。

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