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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第10章 第二話 【はまなすの咲く町から】 恋の病

 この花のように、たとえ誰が見ていなくても背筋を伸ばして凜として立っていたいのに、現実は、薄汚れたことばかり考えている。この身は聖域と呼ばれる寺の中にあり、日々、本堂で御仏に祈りを捧げていても、心の内は煩悩が巣喰っているばかりだ。何という情けないことだろう。
 いっそのこと、この寄せては返す波に身をゆだね、広い海を漂い流れ、行き着くところまで行けたなら。恋しい男のいない場所、ここではないどこかへ行けたなら、どんなにか心安らかに暮らせることだろうか。
 否、自分は、けしてどこへも行けはしないことをキョンシルはちゃんと知っている。トスの側を今更、離れるなんて、できるはずがない。

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