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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第10章 第二話 【はまなすの咲く町から】 恋の病

 第一、どこに行ったとしても、心の奥にしっかりと刻み込まれているあの男の面影を消せやしないのだ。自分のこの生命が終わるとき以外は。
 風の悪戯か、浜木綿が一輪、ぽっきりと折れて砂浜に横たわっていた。キョンシルは無残に折れた花を拾い上げ、愛おしむように手のひらで撫でた。ひとしきり撫で、寄せてきた波に花を託した。白い花は波に乗り、運ばれてゆき直に見えなくなった。
 あんな風にトスへの想いもこの海に流せたら良いのに。キョンシルの頬に落ちたほつれ毛を海風が嬲る。はるか水平線の向こうから吹いてくる風は強い潮の香りとかすかな胸の痛みを彼女にもたらした。

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