テキストサイズ

側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第10章 第二話 【はまなすの咲く町から】 恋の病

「私は、そんな未来など欲しくはなかった。父はただ自分の言うなりになる人形に私を仕立て上げたかったのでしょう。それに、父にとかくの噂があることを、私は知っています。商売にかけては人ではない―そう囁かれるほどに冷酷非道になることも、法に触れるぎりぎりのきわどいところまでのあくどいやり方で取引を強引に纏めることもあります」
 ややあって、感情を露わにしてしまった我が身を恥じ入るように紅くなった。
「大きな声を出してしまい、申し訳ありません」
 トスは笑った。
「俺のことなんは、気にしないで良い」
 が、次の瞬間、トスの貌から笑みがかき消えた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ