『側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】』第11章「第二話　【はまなすの咲く町から】　真実」　471ページ

小中大テキストサイズ

側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第11章第二話　【はまなすの咲く町から】　真実

　無意識の中に顔を上げ、キョンシルは烈しい驚愕に打たれた。御仏が泣いている―！
　今、この瞬間、確かに観世音菩薩は泣いていた。むろん、涙を流しているわけではない。しかし、横の明かり取りの窓、正面扉それぞれから差し込む光が仏像の顔、まさに目許辺りで交差して、微妙な陰影を形作っている。その光と光が交わった小さな点が、あたかも仏の涙のように見えるのだ。
「南無観世尾菩薩」
　キョンシルは両手のひらを合わせ、その場にひざまずいた。
「観音さまがお泣きになるというのは、こういうことだったのね」
　呟きと共に、キョンシルの瞳からも澄んだ滴がほろりと零れた。この菩薩が泣くのは、衆生のためたという。