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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第11章 第二話 【はまなすの咲く町から】 真実

「―ンス。昌秀(チヤンス)」
 トスがうわ言のように叫び続けているのは、どうやら人の名前のようだ。
「ああっ、チャンス。駄目だ、止めろ。チャンス!」
 キョンシルはしばらく固唾を呑んでトスを見守っていたが、やがて意を決した。このままトスを悪夢の中に放り込んでおくことなどできはしない。たとえ迷惑がられようと嫌われようと、ここはひとまず起こすことにした。
「チャンス、頼むから止めてくれ。チャンス」
 トスは両手を振り回し、必死の形相で叫んでいる。よほど怖い夢を見ているのだろう。
「トスおじさん、トスおじさん」
 キョンシルが揺り起こしても、トスはまだしばらく〝チャンス〟の名を呼んでいたが、やがてパチリと眼を開いた。
「トスおじさん、大丈夫?」

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