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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第11章 第二話 【はまなすの咲く町から】 真実

 しかし、トスの瞳に映るキョンシルは別の誰かに変わっていたようだ。
「信(シ)蓮(ヨン)。ああ、シヨン、良かった、無事だったか?」
「―」
 キョンシルは言葉を失った。チャンス、シヨン、どちらも聞いたことのない名前である。もちろんトスにとっては馴染み深いものなのかもしれないけれど、ここまで酷くうなされる夢に出てくる人物とくれば、トス自身にとってもあまり好ましい想い出のある知り合いではないのではと想像するのは難しくない。
「トスおじさん、しっかりして。私よ、キョンシルよ」
 ひと言、ひと言区切るように発音し、トスの眼の前で手のひらを振る。繰り返していると、トスの眼が一杯に開いた。

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