側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】
第11章 第二話 【はまなすの咲く町から】 真実
トスは、ただ海からの風に吹かれて立ち尽くしている。町中まで行くとそうでもないけれど、寺の周辺は海の間近ゆえ、風には潮の香りが混じっているのだ。いつかこの町に来る前、トスが話していたことは本当だった。
トスは何をするでもなく、ただ茫漠と突っ立っているだけだ。
キョンシルはハッと胸をつかれた。トスの両脇に垂らした拳が震えている。低い嗚咽が闇のしじまを這うようにひそやかに響いた。背中もかすかに揺れている。泣いているのだ。
トスの泣いているところを、キョンシルは見たことがなかった。母ミヨンの弔いのときですら、トスは気丈に歯を食いしばって耐えていたのだ。強い男が泣くその理由は、余人には思い及びもしない事情が隠されているのかもしれなかった。
トスは何をするでもなく、ただ茫漠と突っ立っているだけだ。
キョンシルはハッと胸をつかれた。トスの両脇に垂らした拳が震えている。低い嗚咽が闇のしじまを這うようにひそやかに響いた。背中もかすかに揺れている。泣いているのだ。
トスの泣いているところを、キョンシルは見たことがなかった。母ミヨンの弔いのときですら、トスは気丈に歯を食いしばって耐えていたのだ。強い男が泣くその理由は、余人には思い及びもしない事情が隠されているのかもしれなかった。