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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第11章 第二話 【はまなすの咲く町から】 真実

 キョンシルは愕きを隠せない。トスは少し離れた樹陰からキョンシルが見ているのも知らず、墓の前にひざまずいた。泥がつくのも頓着せず、頭を地面にこすりつけている。
 それにしても、あの小さな墓は誰のものなのか? 真夜中に急に思い立って詣でるほどだから、トスにとってはよほど大切な人に相違ない。この墓の主もまた、他人には語らぬトスの過去の一部なのだろう。
 拝礼を終えると、トスは覚束ない足取りで立ちあがった。ここに来るまでの憑かれたような雰囲気は消え、打って変わって側から支えなければ、すぐに倒れてしまいそうな危うさがある。全く、いつも隙のない抜き身の刃のような鋭さは微塵もなかった。 

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