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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第11章 第二話 【はまなすの咲く町から】 真実

 翌朝、キョンシルはトスがまだ眠っている中に寺を出た。トスはいつも陽の出より前に起きるのに、昨夜のことではよほど神経を消耗していたのだろう。いつになく熟睡していて、物音にピクリとも反応しなかった。
 もしかしたら、これがトスの貌を見る最後になるかもしれない。せめて大好きだった男の面影をしっかりと心に刻みつけておきたい。キョンシルは枕辺に座ってしばしトスの貌に見入った。
 秀でた額、形の良い眉、やや切れ上がった眼、整った鼻梁から唇とすべてが整いすぎるほど整っている。常ならば、眠っていてさえ、意識の一部は覚醒していて、いつ何があっても剣は取れる場所にあった。トスは根っからの剣士だ。しかし、いつになく無防備な寝顔は、彼の三十歳という若さを余すところなくさらけ出していた。

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