
側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】
第13章 第三話 【むせび泣く月】 出逢いはある日、突然に
「今日は仕事先で色々とあったのでな。疲れている。失礼だが、先に寝(やす)むよ」
ああ、と、トスが思い出したように付け加えた。
「明日の朝、出ていくについては俺に特に挨拶なぞ必要ない。ゆえに、心置きなく出ていってくれ」
これでは、〝出ていけ〟とはっきり言っているようなものだ。いつもなら、こんな露骨な嫌みは絶対に口にしないはずなのに、今夜はどうしたというのか。確かに人の心の機微に疎い青年ではあるけれど、そこまで敵意を剥き出しにして拒絶するほどの悪人ではない。―むしろ、今時、こんな人間がいるのかと思うほど、人が好すぎるほど好い。
ああ、と、トスが思い出したように付け加えた。
「明日の朝、出ていくについては俺に特に挨拶なぞ必要ない。ゆえに、心置きなく出ていってくれ」
これでは、〝出ていけ〟とはっきり言っているようなものだ。いつもなら、こんな露骨な嫌みは絶対に口にしないはずなのに、今夜はどうしたというのか。確かに人の心の機微に疎い青年ではあるけれど、そこまで敵意を剥き出しにして拒絶するほどの悪人ではない。―むしろ、今時、こんな人間がいるのかと思うほど、人が好すぎるほど好い。
