テキストサイズ

側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第15章 王宮という名の伏魔殿

「ツ!」
 考え事に耽っていたせいか、小刀の切っ先で指を突いてしまった。忽ちにして鮮血が指先から溢れ出てくる。
「俺としたことが」
 トスは考えられない失態に苦笑いし、流れ出る血を無造作に上着の袖でぬぐった。キョンシルが見れば、服が汚れるとまた、柳眉を逆立てて怒ることだろう。何しろ、トスは身なりにまるで構わない。良い歳をして髪を結い上げもせず、背中に垂らして紐で無造作にひと括りしただけだ。着ているものも以前はいつ洗濯したかも知れぬ代物だった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ