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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第15章 王宮という名の伏魔殿

「そんなことはないわ!」
 部屋中に響き渡るほどの大音声で叫んでしまってから、ハッとする。案の定、固く閉ざされた入り口の扉の向こうで、かすかにざわめきが起こった。多分、あまり考えたくはないことだが、例のいかめしい尚宮が
―国王殿下のご寝所であのように騒ぎ立てるとは、何とはしたない。
 と、露骨に眉を顰めているのだろう光景を容易に想像できる。
 クスクスと忍び笑いが背後で聞こえ、キョンシルは振り返った。
「酷いわ。ソンったら、私のことを笑ってるのね」
「だって、この部屋に来て、そんな大声を出した娘はキョンシルが初めてだから」
 その何気ない科白にも、キョンシルは目許を染めた。

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