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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第16章 第三話 【むせび泣く月】 飛翔する鳥

「男は惚れた女のことなら、何でも憶えているものだ」
 しれっと澄ました顔でこういう女殺しの科白を口にできるのがソンの凄い? ところである。別にソン本人は意図して口にしているわけではない。心に浮かんだこと、本音を言っているにすぎないのだが、言われた女の方は女心をくすぐられることは必定だ。
 若い王がいかにも愉しげに笑う様を遠くから見た内官や尚宮が微笑ましげにこちらを見つめている。その中にはあのホン内官の姿も見える。老齢ながら長身ですっと背筋の伸びたその立ち姿は、若い頃はさぞかし女官たちの熱い視線を集めただろうと思わせた。

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