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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第16章 第三話 【むせび泣く月】 飛翔する鳥

「殿下」
 キョンシルは立ち上がり、素早く出迎えのために入り口まで行った。たった今、宮殿を出ることを考えていただけに、流石に心臓が落ち着かない。片手で騒ぐ胸を押さえ、軽く頭を下げる。
 ソンがひっそりと笑った。
「珍しいな。二人きりのときに、キョンシルがそんな風に出迎えてくれるなんて」
 言葉そのものは優しげだけれど、どこか突き放したような感じがするのは気のせいだろうか。
 昼間、ソンが訪れた際には石榴茶を出すと決まっている。キョンシルは常時、室に準備されている道具を使って、手早く石榴茶を淹れた。

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