側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】
第17章 第四話 【牡丹の花咲く頃には】・戻らぬ男
戻らぬ男
静かな、ただ静かすぎるほどの静寂(しじま)が四方に満ちている。卿(キヨン)実(シル)は小さな吐息を吐き出し、前方へと果てしなく続いてゆくかのように見える薄闇を見つめた。
時折、ミミズクの声が遠方からかすかに聞こえてくるのが余計に静けさを際立たせている。今夜もこうして、暁方までまんじりともせず、帰ってこない男を待ち続けるのだろうか。
道(ト)洙(ス)の朝帰りが始まったのは、かれこれ、ひと月ほど前のことだ。年が改まって早々、近隣に住む若い銀細工職人に誘われて出かけたのがきっかけとなった。トスも向こうもまだ所帯持ちではないゆえか、一旦飲み出すと、止まらなくなるのだと、トスが言い訳めいたことを言っていた。
静かな、ただ静かすぎるほどの静寂(しじま)が四方に満ちている。卿(キヨン)実(シル)は小さな吐息を吐き出し、前方へと果てしなく続いてゆくかのように見える薄闇を見つめた。
時折、ミミズクの声が遠方からかすかに聞こえてくるのが余計に静けさを際立たせている。今夜もこうして、暁方までまんじりともせず、帰ってこない男を待ち続けるのだろうか。
道(ト)洙(ス)の朝帰りが始まったのは、かれこれ、ひと月ほど前のことだ。年が改まって早々、近隣に住む若い銀細工職人に誘われて出かけたのがきっかけとなった。トスも向こうもまだ所帯持ちではないゆえか、一旦飲み出すと、止まらなくなるのだと、トスが言い訳めいたことを言っていた。