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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第17章 第四話 【牡丹の花咲く頃には】・戻らぬ男

「酒だ、酒を持ってこい」
 女は頑なに首を振った。
「お断り致します」
 トスの濃い眉が強く顰められた。
「そなたでは話にならない。誰か別の女を呼んでこい」
 女はキッとした眼でトスを睨み据えた。
「お断り致します。明日からのことは何とも言えませんが、今宵の私の敵娼(あいかた)は旦那さまでございますゆえ、ひとたび決まった敵娼を一夜の中(うち)に何度も代えるのは廓(くるわ)の作法に反します」
「どうせ俺は廓の流儀なぞ知らぬ無粋な男だからな」
 トスが自嘲めいて嗤うのに、女は控えめに問うた。
「旦那さまのような方が何故、妓楼に?」

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