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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第17章 第四話 【牡丹の花咲く頃には】・戻らぬ男

 女は胸にほっそりとした手のひらを当てた。
「旦那さま、私は確かに妓生ではございますが、妓生にも心はあります。お客が眼の前で憂さ晴らしの酒をさんざん飲んだ挙げ句、身体を壊してしまうのを見て、平気でいられると思いますか?」
「フン、余計なお節介など要らぬと同様、そなたの心など俺が知ったことではない。全っく、辛気くさい顔をして座っているだけかと思えば、説教までするとは」
 トスは女から強引に銚子を奪い返し、銚子を傾ける。しかし、十数本目になる銚子も既に空であった。
 軽い舌打ちをきかせ、トスは女の方へ銚子を突き出した。

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