テキストサイズ

側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第17章 第四話 【牡丹の花咲く頃には】・戻らぬ男

 ただでさえトスは眼光も鋭く、全身からは抜き身の剣のような研ぎ澄まされた殺気が放たれている。普段は流石に、そこまで剣呑な雰囲気ではないが、ひとたび何か起こったときには、彼はまさに闘う雄獅子と化した。いや、孤高な狼とでもいえようか。
 大抵の者であれば、トスがひと睨みしようものなら、怖じ気づいて逃げてゆく。が、眼前のこの女はいささかも怯まず、気丈にトスを見上げた。
「はい、淋しいという言葉がお気に召さないのであれば、何かにとても苛立っているとでも言い換えましょうか」
 トスの眉間の皺がいっそう深くなった。
「どうも、この妓楼は妓生の教育を怠っているようだな」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ