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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第17章 第四話 【牡丹の花咲く頃には】・戻らぬ男

「旦那さま、私は確かに妓生ではありますが、かといって、人の心まで失ったわけではなく、また、たとえ相手がお客だからといって、私の心まで踏みにじることはできないのです」
 そうか、と、トスはおもむろに頷いた。
「先刻、そなたは俺が淋しそうに見えると言った。であれば、客の無聊を慰めるのが妓生たるそなたの務めであろう」
 荒々しい力で女の手を掴み引き寄せると、そのまま褥に押し倒す。真上から覆い被さると、女の顔が間近にあった。
「私は今宵、妓生だから旦那さまに抱かれるのではありません。私の心が旦那さまを求めるからこそ、あなたさまのお相手をさせて頂くのです」
 強い力のあるまなざし。この瞳とよく似た眼を持つ女をトスは知っている。キョンシル、彼がただ一人の想い人と定めた娘だ。

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