テキストサイズ

側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第17章 第四話 【牡丹の花咲く頃には】・戻らぬ男

「別に謝って頂くいわれは全くありませんが、もし、旦那さまが本当にそうお思いになるのなら、また近い中にお顔を見せて下さいませ、ね?」
 と、やはり客あしらいが上手いのは商売柄だからだろう。
 トスはまだ紅いままの顔で頷いた。
「機会があれば、いずれ」
「きっとですわよ。お待ちしていますからね」
 どうせ仕事上のお愛想にすぎないのは判っている。トスはそそくさと逃げるように室を出て扉を閉めた。
 扉が眼の前で閉まった後、一人、室に取り残されたファソンが嘆息した。
「それにしても、罪な女もいるものねぇ。あんな良い男をあそこまで惑乱させるなんて。あたしら妓生よりはよほど男を骨抜きにする手練手管に長けてるのではないかしら」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ