
側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】
第17章 第四話 【牡丹の花咲く頃には】・戻らぬ男
あの男は、どうやら心底から惚れた女がいるらしい。ファソンはもう二度と来ることはないであろう男を思った。
「まっ、かえって、その方が良いのかもしれないわね。あの旦那とこれ以上拘わり合ったら、こっちが本気になりそうだもの」
妓生が客に惚れたって、泣きを見るだけだ。少女の頃から妓楼で暮らしてきたファソンは身に滲みている。小さな欠伸をしてから、先刻まで男が座っていた褥に転がった。
夜明けまでには、まだ間がある。ひと眠りしようと眼を瞑ったファソンの鼻腔を男の移り香がくすぐる。先刻の客のものに相違なかった。
「まっ、かえって、その方が良いのかもしれないわね。あの旦那とこれ以上拘わり合ったら、こっちが本気になりそうだもの」
妓生が客に惚れたって、泣きを見るだけだ。少女の頃から妓楼で暮らしてきたファソンは身に滲みている。小さな欠伸をしてから、先刻まで男が座っていた褥に転がった。
夜明けまでには、まだ間がある。ひと眠りしようと眼を瞑ったファソンの鼻腔を男の移り香がくすぐる。先刻の客のものに相違なかった。
