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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第17章 第四話 【牡丹の花咲く頃には】・戻らぬ男

 が、キョンシルはトスを信じ切って―というより、トスがそのような怖ろしいことを夢想しているなど露ほども考えず、安らいだ寝顔を見せていた。その無邪気な何もかも委ねている寝顔を眺めていると、身の内で猛り狂っていた情欲の焔を辛うじて鎮めることができた。
 そんな毎日に耐え切れず、近隣の若い職人ウンスクと酒場に呑みに出かけるようになったのは、ひと月ほど前のことだ。
 そのことについて、キョンシルが心を痛めているのは知っていた。時々、物言いたげにキョンシルが見つめているのに気づいていない風を装いながらも、トスの心は苦悩に喘いでいた。

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