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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第17章 第四話 【牡丹の花咲く頃には】・戻らぬ男

 トスは言うだけ言うと、部屋の片隅に立てかけてあった長剣を手にした。自称〝流れ者の剣士〟であるトス愛用の長刀である。眠るとき意外は、常に肌身離さず背負っている。
「もう出かける時間だ。行ってくる」
 トスは逃げ去るかのように家を出ていった。強ばった背中はキョンシルを全身で拒絶しているようだ。キョンシルは新たに滲んだ涙をまたたきで散らし、トスの後ろ姿を見送るしかなかった。

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