テキストサイズ

側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第18章 第四話 【牡丹の花咲く頃には】 祖父の願い

 そんな最中にトスの側を離れるのは酷く勇気の要ることだ。相愛の恋人同士ですら、遠く離れて暮らす年月が長くなれば、心が醒めることもあるというのに。
 でも、それは所詮、キョンシルの我が儘というものだ。祖父の生命が明日をも知れぬというこのときに、自分の色恋どころではないだろう。
 キョンシルが思い惑っていると、唐突に頭上から声が降ってきた。
「どうした、戸を開けっ放しなんかにして」
 トスの深みのある声が何故か今日はとても懐かしく思えた。
「道理で冷えると思ったら、降ってきたな」
 トスは呟きながら、室に入ってきた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ