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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第18章 第四話 【牡丹の花咲く頃には】 祖父の願い

 眼の前にかざされたのは一輪の椿だった。深紅の艶やかな大輪の花は精巧に刻まれた装飾品か芸術品のようだ。
「綺麗」
 キョンシルが微笑むと、トスは嬉しげに笑った。まるで母親に褒めて貰えた子どものような表情に、キョンシルの胸は一杯になる。
 トスのこんな屈託ない明るい笑顔を見るのは何ヶ月ぶりだろうかと思うと、余計に嬉しくなって、涙まで込み上げてきた。
「どうしたんだ? 一体、何があった」
 勘の鋭い男は早くもキョンシルの心の変化に感づいているようだ。
 キョンシルは小さく首を振り、座り直した。
「何も。ただ嬉しかっただけ」
「何がそんなに嬉しかったんだ?」
 トスは当惑した様子だ。

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