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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第18章 第四話 【牡丹の花咲く頃には】 祖父の願い

 休みたくとも立ち止まることは許されなかった。恐怖を感じる夢ではなかったけれど、哀しい夢だった。
 目覚めたのは、彼方から自分を探し求める人の声によってだ。キョンシルは薄い夜具の上に身を起こし、意識がゆっくりと覚醒するのを待った。
「随分とうなされていたようだが、大丈夫か?」
 傍らで声が聞こえて、キョンシルはゆるゆると面を上げた。そうだ、あの声、奇妙な物哀しい夢の中で自分を呼び続けていたのは、トスの声であった。だからこそ、あんなにも懐かしく慕わしく感じたのだ。
「夢を見ていたの」
 吐息と共に呟きが零れ落ちる。

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