
変人を好きになりました
第19章 灯台下暗し
どういうことだ。
宿谷里香の持っていた古都さんの写真のデータを思い出す。
この家の古都さんの浴室。彼女が湯につかっている様子、立ち上がりシャワーを浴びる姿。全身を曝け出して髪に丁寧にリンスらしいものを撫でつけている写真。
おかしい。
そういった写真を狭い車内であの宿谷里香から見せられたとき瞬時に疑問を持った。
悪意がない写真だった。
もちろん人の入浴している様子を盗撮するなんてことに悪意を感じないというわけではない。しかし、あの写真は浴槽にしかけられたカメラでとられた映像の一場面にすぎないのだろう。
それならば、もう少し……いや、もっと身体を曝け出した無防備な姿を画像にしても構わなかったのではないか。
実際の写真は全て悪意にかけていた。
身体を曝け出しているにしても綺麗な写真だった。
彼女に好意を持っている人物が選んだとしか思えない。
携帯が無機質に震えてテーブルと携帯との接地面積をせわしなく揺らす。
光った画面に映し出された名前と素っ気ない文字。
『明日の夜には帰る』
空良からだ。
人が何を考えているのかだいたいは分かる。それでも、あの男は出会った時から少し分からない。表面ではまるで裏表がないように振る舞い、僕自身も最初こそ村井空良という人物はただただ明るく馬鹿みたいになんでも笑い飛ばせる陽気な奴だと思っていた。
いや、違う。と気が付いたのは少したってからだった。
コミュニケーションで知覚される態度は言葉が7%、音声が38%そして顔が55%だ。空良の場合、元々の顔のつくりが万人受けする。それに少しばかり微笑めば男も女もみんな好意をもってしまう。
しかし、表情はつくることができる。
デズモンド・モリスは『マンウォッチング』で人間の動作で最も信用できないのを表情だと言っている。僕もその意見には異議はない。
最も信用できる動作としては自律神経信号。顔色や発汗などがそれだ。次に信用できるものは下肢信号。足元の動きだ。体幹信号、微妙な手の動き、意図的な手の動きが後に続く。
空良を観察していると顔では笑っていても無意識に拳を握りしめていたり、古都さんと話している時だって顔は穏やかで優しいのに、足元が落ち着かず首筋の裏に若干の発汗がみられる時も多々ある。
