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変人を好きになりました

第21章 初恋の相手

「びっくりしたのなんのって。まさかあんな場所で二人が抱き合ってずっとキスしてるなんてね」

 何度も聞かされたその言葉に私は毎回真っ赤になってしまう。
 宿谷さんは帰ってこない私を心配して外に出たらしい。そして私と黒滝さんを見つけた。
 まさか1時間も経っているなんて思わなかった。ほんの数分にも感じられた。

 迎えに来た宿谷さんは目を丸くして私たちを見ていた。それに気が付いてまじまじと宿谷さんの顔を見て思い至った。


「もしかして……宿谷里香さんのお兄さん?」
「正解」

 黒滝さんが私を立たせてくれた。腰が抜けてしまっていたらしくて、私は抱えられるように宿谷さんの部屋へ戻った。びしょ濡れというか、プールに飛び込んできたような出で立ちの私と黒滝さんを見てエントランスにいたお姉さんたちは小さな驚きの叫び声をあげて、すぐにふかふかのタオルをふたつ持ってきてくれた。

 それを有難く受け取ってエレベーターに乗っている間、黒滝さんはずっと私の腰に腕を回していた。抱き寄せるというよりは犯人を連行しているみたいに私が逃げるのを阻止しようとしているみたいな様子だった。

 もうどこにも逃げるつもりはないのに。
 それよりも、もっと聞きたいことがある。
 黒滝さんが話していた初恋の人って……それって、もしかして。


「で、記憶が戻ったんだね?」
「はい」
 宿谷さんは確認するように私を見る。
 それからすぐに気まずそうに苦笑いをした。
「そっか。俺のこと憎いよね」

 里香さんのお兄さん。
 私にガラス片を投げつけた彼女の兄妹。
 だから、憎い?

「そんなことありません。というか、感謝してます。秘書に雇ってくれるって言って下さったり、治療のことも」
「え。だって、それは里香がやったことの」
「償い。ですよね。それでも、ありがとうございます。でも、私に負い目を感じているからって秘書にしてもらうのは私にとって怪我以上にショックです」

「古都さん……。申し訳ない。古都さんを秘書にと望んだのは本心だ。妹が怪我をさせたと聞いて相手はどうなっているのか気になって調べたらすごく有能な人材で、不謹慎だけれども良い人材を見つけたと思って嬉しかった」

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