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変人を好きになりました

第22章 犯人探し

「じゃあ、本好きなんだ?」
「好きですよ。青山さんも?」

「うんうん! あのね、一番好きなのはギュンター・グラスのティムドラム。あ、えっと日本語で何て言ったっけ」
「ブリキの太鼓ですね。私も読みました」
「いいよねー。私、原文で読んだんだけど、こう……独文学ってすごい魅力的じゃない?」

 ただ、愛読書から青山さんの知性があふれ出ているような気がする。
 私はどちらかというとメジャーなものが好きだった。夏目漱石の作品は全集持っているし、特に坊ちゃんなんて有名どころの中の有名なものだけれど、私のツボだ。

「ていうか、古い図書館ってもしかしてあそこの?」
「え? そうですよ。ご存じなんですか?」

 青山さんが思い出したように口にした図書館の名前は私が働いていた場所だった。驚いて聞き返すと青山さんもすごくびっくりしたように答えた。

「うんうん。だって、あこに私の友達がいるもん。由佳って言うんだけど、さすがに知らな」
「由佳!」
 青山さんの話をぶった切って言うと青山さんが瞬きを繰り返した。

「知ってるの?」
「はい。幼馴染ですよ」
「えーーっ。本当に? こんなことってあるんだ」

 感心したようにほーと声を漏らしている。
「由佳とはどういう」
「大学の後輩よ。あの子も色んな企業からオファーきてたんだけど、なんでかなあ。図書館に就職しちゃって、教授たちも私たちもびっくりよ」

 初耳だった。
 そういえば理系が得意な由佳がどうして図書館で働いているのだろうと疑問に思ったことはあったけれど、そこまで深く考えたことも聞いたこともなかった。

「由佳元気でやってる?」
「あ」


 そういえば、記憶が戻ったことをまだ報告していなかった。あんなに心配してくれていたのに。
 今日、仕事が終わったら社長のマンションに帰る前に由佳の家に行こうと決めた。

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